MicroAd Developers Blog

マイクロアドのエンジニアブログです。インフラ、開発、分析について発信していきます。

Cloud 版 Jira Service Desk の導入と社内ワークフローの整理

マイクロアドでコーポレートエンジニアをしている米田(マイタ)です。

マイクロアドでは以前から Atlassian 社の Cloud 版 Jira Software と Confluence を導入していますが、今回は「2019年から Jira Service Desk を導入して社内のワークフローを整理している話」について書きたいと思います。

1. きっかけ

2019年6月11日に渋谷ヒカリエで行われた「Atlassian Team Tour 2019」に参加し、「Jira Service Desk」という製品を知ったことがはじまりでした。

翌週のチームミーティングで「Jira Service Desk」の話を共有したところ、下記の目的で利用できるのではないかとメンバーから好反応があり、私の方でより具体的に情報収集・検証をすることになりました。

  • 社内ワークフローの整備
  • 各種社内申請の一元化
  • ナレッジの集約
  • 内部監査対応

2. Jira Service Desk とは

Jira Service Desk は Atlassian 社が提供している「柔軟性の高いコラボレーション ITSM*1 ソリューション」です。

社内外からのリクエストに対応でき、リクエストはポータルサイトやメール送信で作成することができます。 同社の製品 Jira Software / Confluence と連携して利用することができ、サービスデスクのテンプレートもITサービス以外に、人事・法務・ファシリティなどが用意されています。 また、ITIL*2 に基づいて設計されており、SLAs*3 などの計測、満足度の計測が可能です。

マイクロアドでは Cloud 版の Jira Service Desk を利用しています。

弊社のポータルサイト

3. Jira Service Desk の検証

ネット上の公式マニュアルなどで情報収集をしつつ、30日間のトライアル期間を利用して実際に Jira Service Desk の検証を行いました。

3.1. カスタマーとエージェント

Jira Software や Confluence を利用する場合、1ユーザー毎にライセンスが必要になります。 Jira Service Desk のロールには「カスタマー」と「エージェント」があり、ライセンスが必要なロールと不要なロールがあります。

3.1.1. カスタマー

カスタマーは Jira Service Desk のサービスデスク・ポータルにログインし、ナレッジベースの確認やリクエストの提出・確認・承認処理が可能なロールで、ライセンスは不要(無料)ですのでコストがかかりません

マイクロアドでは、一般スタッフ(申請者、承認者)が「カスタマー」として Jira Service Desk を利用しています。

3.1.2. エージェント

エージェントはJira Service Desk にログインし、カスタマーの利用するリクエストフォームやワークフローを作成し、カスタマーの提出したリクエストの確認・回答・対応が可能なロールで、ライセンスが必要(有料)です。

エージェントが Confluence のライセンスも所有している場合、パブリックスペースの機能を利用して、Jira Service Desk のカスタマー(Confluence のライセンスを所有していないユーザー)が閲覧可能なナレッジベース(記事)を作成できます。

補足:コラボレーター

非公式なロールとして、「コラボレーター」があります。 Jira Software のライセンスを所有している場合、エージェントが可能な「リクエストの担当者に設定」、「リクエストのトランジッション」、「カスタマーへの回答」はできませんが、「リクエストの閲覧」、「内部コメントの作成」が可能になります。

興味のある方はこちらの記事をご確認ください。

3.2 コメント

Jira Service Desk では、「内部コメント」と「公開コメント」の2種類のコメントがあります。

「内部コメント」はエージェントとコラボレーターが追加・閲覧できるコメントで、カスタマーには公開されません。 「公開コメント」はカスタマーとエージェントが追加・閲覧できるコメントで、コラボレーターは閲覧のみ可能です。

エージェント間や作業記録などの内部的なコメントを残す場合には「内部コメント」、カスタマーへ回答する場合には「公開コメント」と使い分けることができます。

3.3. 承認処理

Jira Service Desk ではワークフローのステータスに「承認」処理を追加することができ、承認結果によって実行されるトランジッションを設定できます。 承認者として設定できるユーザーに制限は無く、「カスタマー」も承認者に設定できるので、承認者になるために有料ライセンスが必要になるということはありません。

ステータスに承認を追加
承認を設定

3.4. 自動化

Jira Service Desk では処理を「自動化」することができます。 例えば、特定のステータスになったら指定したプロジェクトに Issue を作成したり、一定時間が経過するとリクエストをクローズさせる、コメントを追加したらステータスを変更させるなど、様々なことが可能で、プロジェクト設定の「自動化」から簡単に設定可能です。

自動化の設定

3.5. アドオン

検証したアドオンのうち、実際に利用しているものを2つ紹介したいと思います。

3.5.1. Automation for Jira Cloud

こちらは自動化機能のアドオンですが、Jira Service Desk の「自動化」機能で対応していない処理や設定を自動化することができたり、より細かく条件を指定したり、変数を利用できたりします。

Automation Lite for Jira Cloud はフリー版で月 300ルール実行という制限がありました。 ただし、このアドオンを販売していた企業を Atlassian が M&A したため、今後数ヶ月以内に Jira Service Desk / Jira Software のネイティブ機能になります! ルール実行回数制限は Jira Software Cloud の Standard 版を利用している場合は 2,000ルール実行/月、Jira Service Desk Cloud の Standard 版を利用している場合は 5,000ルール実行/月できるようになるそうです。

As you might know already, Atlassian recently acquired the app Automation for Jira from the Atlassian Marketplace.We're excited to let you know that in the coming months, automation will be available natively to all Jira Cloud customers! If you're using Jira Software Standard, you will now have 2000 monthly rule executions. Jira Service Desk Standard will now have 5000 monthly rule executions. (Atlassian, Important changes to Automation for Jira Lite!, 24 January 2020)

また、検証時は海外のカスタマーサービスにチケットを作成して質問していましたが、現在は Atlassian サポートが窓口になったようなので、日本語で質問可能なようです。

こちらの機能に興味がある方は公式ドキュメントをご参照ください。

3.5.2. Smart Checklist for Jira Cloud

こちらもフリー版を利用していましたが、Jira Software / Jira Service Desk でチケットに対してチェックリストを追加できるアドオンです。

サブタスクを作成するほどでもない項目をチェックリストとして追加したり、事前にチェックリストをテンプレート化しておいて必要なチケットにインポートすることができます。

フリー版には制限がありますが、十分に利用可能です。

こちらの機能についても公式ドキュメントがありますので、興味がある方はご参照ください。

3.6. ナレッジベース

エージェントの項にも書きましたが、Jira Service Desk のプロジェクトと Confluence のスペースを連携させることで、Jira Service Desk のカスタマー(Confluence のライセンスを所有していないユーザー)が閲覧可能なナレッジベース(記事)を作成できます。 閲覧可能なナレッジベースの URL は Confluence で表示する際の URL とは違う URL になります。

ナレッジベース(記事)を作成するには Confluence のライセンスが必要になります。

3.7. 利用価格

30日間のトライアル期間がありますが、それ以降は Jira Service Desk の Standard 版の場合、3名までは1,200円/月で利用可能です! ※無料版の場合は3名まで0円/月で利用できるようです。

4名以上になると一気に利用料が高くなり、Jira Service Desk の Standard 版の場合、4名~15名で利用する場合、1人あたり2,380円/月になります。

価格について詳しく知りたい方はこちらのページをご確認ください。

4. ITサービデスクとしての導入

4.1. 導入前の課題

導入前の ITサービスデスク業務では、メンバー個人のチャットなどに直接依頼が届いていました。 メンバー間での共有のため Jira Software にプロジェクトを作成しタスク管理を行っていましたが、社内スタッフからの依頼に対してすべてのタスクをチケットとして発行できておらず、件数や内容の把握ができていない状況でした。 また、Jira Software のライセンスを持っているユーザーの中には直接チケットを作成してくれる方もいたのですが、大半は我々がヒアリングしてチケットを作成し、ほとんどの依頼者はその依頼内容や進行状況などを閲覧できないという状況でした。

これらの課題を解決してくれたのが、Jira Service Desk でした。

4.2. 導入

導入に当たって、Jira Service Desk に含まれる ITサービス用テンプレートでプロジェクト作成しました。テンプレートには一般的なリクエストやヘルプ依頼用のワークフローやリクエストフォームが含まれていたので、すぐに利用することができました。 また、自分たちの承認仕様にあった汎用的なワークフローも作成し、アカウント申請や利用申請のフォームも構築しました。

テンプレートに含まれるワークフロー

導入により、申請者はポータルサイトにアクセスしリクエストの作成や確認・共有、承認依頼の確認・対応、ナレッジベースを参照することができるようになりました。 また、 ITサービスデスク業務担当者は自分たちでチケットを作成する作業が軽減し、対応ログとノウハウがチケットとナレッジベースとして蓄積されるようになりました。

5. 法務グループへの導入

ここでは弊社の法務グループに Jira Service Desk を導入した話を書きたいと思います。

5.1. 導入前

法務グループでは、

  • 契約書の作成・確認
  • 押印稟議
  • 作成した契約書の電子データ保存と管理

という3つの作業を別々のソリューションを使って行っていました。 契約書の作成・確認を申請するシステムは trac で構築されていましたが、オンプレで社外からは利用できませんでした。

5.2. クラウドサービスの検討

当初は trac で運用している環境のリプレイスの検討から始まったプロジェクトでしたが、法務グループからヒアリングを行う中で、上記の作業を1つのサービスに統合したいという要望が強く挙げられました。

その中で法務グループ側から候補として上がったのが、とあるリーガルテックサービスでした。

このリーガルテックサービスの特徴

  • 契約業務に特化したサービスで、上記3つの作業が統合されているサービス
  • 月額10万円~
  • 保存できるストレージ容量に制限はない

サービス自体は非常に魅力的だったのですが、月額利用料が高めだったため、導入を見送りました。

そして並行して検討していたのが Jira Service Desk でした。 エージェント2名での運用を想定すると、 Jira Service Desk と Confluence のライセンスで1人当たりの月額利用料は約3,000円と、かなりコストを抑えることができました。

5.3. Jira Service Desk の導入

法務グループからのヒアリングから仕様を作成し、それに基づいて専用のワークフローとリクエストフォームを作成しました。 結果、先出の3つの作業を Jira Service Desk で一元管理することができるようになりました。 また、クラウドサービスですので、社外からの申請やエージェントの対応も可能になりました。

法務サービスデスクの運用開始に先立ち、法務グループが複数回に渡って社内スタッフに対して利用説明会を開催しました。 特に問題もなく Jira Service Desk でのサービスに切り替わり、順調に稼働しています!

6. Jira Service Deskを導入した感想

Jira Service Desk は様々な機能が盛り込まれており、非常に価値のある製品だと思います。 ただし、高機能が故に、月額利用料が Jira Software などと比べて高価になっています。

また、設定がいろいろと分散していているので、慣れるまでは設定場所を探すのに時間を取られるかもしれません。 1度作り上げると修正も簡単で、他のプロジェクトにも流用できるので、複数部門の利用も簡単です。

SLAs の計測のため、プロジェクト毎にカレンダー設定(勤務時間と祝日)があるのですが、複数プロジェクトで利用できるカレンダー設定があると良いなと思っています。

7. 今後の展開

今後は更に社内展開を進め、自動化機能を上手く取り入れながら、社内ワークフローを整理・見える化し、ナレッジの収集と共有を促進していきたいと思っています。 Jira Service Desk に集約することで、利用者側も申請窓口が一元化し、利用しやすくなっていくと思います。

Jira Service Desk は設定が細かく、今回のブログではかなり大まかな内容になってしまったので、細かい項目や便利な設定など、後日改めてブログに記載したいと思っています。 また、Atlassian 製品の Cloud 版は新機能が順次追加されているので、 自動化も含め今後も検証していきたいと思います。

最後まで読んで頂きありがとうございました!!

参考リンク

*1:IT Service Management

*2:Information Technology Infrastructure Library

*3:Service-Level Agreements